INDEX BACK
虚無の国のアリス
 目が覚めるとそこは暗闇?
 恐る恐る起き上がる。恐る恐る手を伸ばす。何も無い。少なくとも今は。
 全くの真っ暗闇。いつどこで誰が……何をした? 彼は考える。考える。考える。何も分からない。
 何気なくポケットに手を入れる。いつもの? 煙草とライター。恐る恐るライターの火を点す。唯一の明かり。
――何も無い。
 本当に全く何も無い。それ以外に表現のしようが無い。
 ライターの火を消してポケットに戻す。
 頭を整理する。思い出す。思い出す。思い出す。何も思い出せない。今はいつか。ここはどこか。自分は誰か。何も分からない。
 思い出そうとする。今はいつか。ここはどこか。自分は誰か。どれから思い出そうか考える。一番重要なのはどれか。優先順位を考える。
 どこかで奇妙な祈りの声が聞こえる。
 
 ぺちゃ。
 少し離れた場所で何か、とても柔らかな物が地面に落ちる音がする。
 ぺちゃぺちゃぺちぺちゃ。
 どんどんどんどん落ちて来る。落ちてくる。落ちてくる。
 ぺちゃり。

――そんな事、どうでも良いじゃ無いか。どうだって良いじゃないか。
 頭の中に響くざらざらとノイズの掛かった……声?
――だって全部……
 ぺちゃり。
――約束したよね。
 ぺちゃりぺちゃりと”何か”が近付いてくる音がする。
――うん。約束した。
 普通じゃない。逃げないと。
 これは全く普通じゃない。立ち上がる。
 逃げる?
 何処へ?
――だから、全部言う通りに、したよ?
 得体の知れない”何か”が近付いて来る。
 ポケットからライターを取り出してライターに火を点す。
 絶叫する。……したつもりだった。でも口から出た声? は、自分の知らないモノ。知る事が無いモノ。決して知ってはいけなかったモノ。
――見ない方が良いよ。だって、もう、ここには……。

   ■■が言う通り僕と■■しか、存在しない世界にしたよ。これで良いんだよね。
   約束通りにしたよ。とても難しかったけれど、一生懸命、頑張ったよ。
   何か身体、変になったけど、仕方無いよね。
   でも、■■も、身体変になったから、一緒だよね。これで良いんだよね。

 どこかで奇妙な祈りの声が聞こえる。

 今はいつか。ここはどこか。自分は誰か。何も分からない。分かっても多分(絶対)仕方が無い。多分自分は取り返しの付かない事になっている。
 
――ずっと、一緒だよね?
――だって、約束したよね?

 彼? がそう言うのだからそうなのだろう。
 
 どこかで奇妙な祈りの声が聞こえる。

 狂う事も出来ない。

トラベルミン