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禁断の果実
 それには決して触れてはいけないの。この世に産まれ落ちた瞬間聞かされた言葉。
 それは、一体誰から聞かされた言葉だったのだろう。
 それは、手を伸ばせば、すぐそこにある。軟らかそうで優しくて。そうしてとてもとても綺麗。
 それは、私達とは全くの正反対。
 それに触れたらどんな気持ちになるのだろう。
 嬉しい気持ち? 楽しい気持ち? 優しい気持ち? 幸せな気持ち?
 嬉しい。楽しい。優しい。幸せ。それは一体どういう気持ち?
 そうしてそれを口に含んだら。一体どんな味がするんだろう。甘いのだろうか。いや、きっと甘い。
 甘い。それは一体どんな味?
 ここは漆黒の闇の世界。
 でも、世界って一体何だろう?
 真っ暗闇の中、金にピカピカ光るたわわに実った沢山の小さな実。実。実。実。実。実。
 ガサガサガサガサガサガサと地面を這いずり回る私達。沢山の沢山の沢山の沢山の沢山の沢山の足をせわしなく動かして。
 ガサガサガサガサガサガサ。ガサガサガサガサガサガサ。ガサガサガサガサガサガサ。
 
 金色にピカピカ光る実の一つがユサユサと揺れる。
 
 誰かが金色にピカピカ光る実を摘み取ろうとしている。
 私じゃない誰かが金色にピカピカ光る実を摘み取ろうとしている。
 皆の足音がピタリと止まる。
 皆の視線がユサユサと揺れる実に釘付けになる。
 私の視線がユサユサ揺れる実に釘付けになる。

 金色の光が暗闇に吸い込まれた瞬間、
 バチンと小さな音がして私達の中の誰かがバラバラに飛び散る。
 私以外の誰かがバラバラに飛び散る。
 飛び散った小さな破片の一つが私の足元にポトリと落ちる。
 小さな破片の一つに、
 醜い醜い醜い醜い醜い醜い手が手が手が手が手が手が伸びる伸びる伸びる伸びる伸びる伸びる。
 でも、残念でした。私は誰よりも素早く破片を拾い上げる。ベチャベチャとした嫌な手触りの誰かの破片。 
 それをそっと口に運ぶ。
 ……苦い。……不味い。
 ……とても苦い。とても苦い。とても苦い。とても苦い。
 ……とても不味い。……とても不味い。……とても不味い。
 ……これ以外の物が食べたい。
 ああ、ああ、ああ、ああ、ああ、ああ。ああああああああああああああああああああああああ。
 金色の実を口に含んだ誰かに嫉妬する。
 金色の実を口に含んだ私以外の誰かに嫉妬する。
 羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。
 苦くて不味い、これ以外の物。
 …それは手を伸ばせばすぐそこにある。そう、そこにあるのだけれど。
 ああ、ああ、ああ、ああ、ああ、ああ。ああああああああああああああああああああああああ。
 
 今日もガサガサガサガサガサガサと地面を這いずり回る私達。
 禁断の果実。その回りを。

トラベルミン