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雨と幽霊
 特別な理由があるわけでは無いけれど、何となく毎日死にたい気分。
 古い校舎、二階へと続く階段の踊り場、雨の日にはそこに幽霊が出る。…らしい。実際自分の目では見た事は無いのだけれど、昔から伝わる噂。……らしい。実際自分の目では見た事は無いのだけれど。
 見てみたい。凄く。会ってみたい。凄く。話をしてみたい。凄く。
 死んだらどうなるのか。何で自分はこんなに死にたいのか。何で自分にはその勇気が無いのか。
 色々な事を聞いてみたい。
 しとしとと雨の降る日は何だか心が浮ついて落ち着かない。
 休み時間や昼休みには用も無いのに(なるべくさり気なく)そこを何度も何度も通る。次こそ、次こそは。と祈りにも似た気持ちを込めて。
 雨の日に校舎の屋上から飛び下りて死んだと聞いた。
 自分ならば晴れの日を選ぶのに。
 血にまみれてトマトのように潰れた顔。力無く佇む姿。
 見てみたい。凄く。会ってみたい。凄く。話をしてみたい。凄く。
 会って話をするまでは自分は死ねない。絶対に。そう考えて何だかおかしな感じがして少し笑ってしまった。
 そうして今日は雨。
 休み時間が待ち遠しくて仕方が無かった。チャイムが鳴る度心が高鳴る。心臓がびくんと跳ね上がる。次の授業の準備もそこそこに。
 でも、いない。やっぱり、いない。期待と落胆。そうして安堵。雨の音。
 会ってしまったら何かが終わる。
 放課後、ジュースを二本買って壁にもたれて腰をすえて待ってみる。通りかかるクラスメイト達が怪訝な目で見つめながら、それでも笑って挨拶。おかしな奴だと思っているんだろ。
 下校時間が過ぎて校内はもう真っ暗。見回りの先生が来る度に隠れてやりすごしたけれどもう帰らないと。塾の時間に間に合わない。これっぽっちも行きたく無いけれど。それに、もう、今日は会えない。感でそう思った。感なんて働かせなくても、いつもの事だ。
 期待と落胆。そうして安堵。雨の音。
 ジュースを最期まで飲み干して一本を階段の手すりの影にかつんと置いた。
 待つのは嫌いじゃあ無いから。又来るよ。心の中で挨拶をして帰途についた。外は雨。雨も嫌いじゃあ無い。
トラベルミン